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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10326号 判決 1967年7月26日

原告 沢井サト子

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 内藤功

被告 社団法人 産経倶楽部

右代表者理事 野沢一郎

右訴訟代理人弁護士 志村桂資

主文

被告と原告四名との間にそれぞれ期間の定めない雇用関係が存在することを確認する。

被告は昭和四〇年一一月以降毎月末日限り原告沢井に対し一九、八〇〇円、原告徳田に対し一九、一〇〇円、原告斎川に対し一七、六〇〇円、原告野口に対し一七、一〇〇円を各支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら 主文同旨

二  被告 「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第二原告らの主張

一  被告はその定款によれば「産業、経済の進歩発達に寄与し併せて会員の親睦を図る」ことを目的とし、「産業経済に関し調査研究をなすこと、会員のため講演会、談話会その他の会合を開催すること、会員のため図書室及び娯楽室を設置すること」等を事業内容とし、個人及び法人の会員若干名を有する社団法人である。原告沢井は昭和三五年一月五日、同徳田は昭和三二年四月一日、同斎川は昭和三七年四月一日、同野口は昭和三九年三月二六日それぞれ被告に期間を定めず雇用され、事務に従事してきたものである。

二  被告は、昭和四〇年一〇月二六日原告沢井、同徳田に対し、同月三〇日同斎川、同野口に対し、いずれも即日解雇する旨の意思表示をした。

三  右解雇の意思表示は次の理由により権利の濫用であって無効である。

(一)  原告らはいずれも前記被告の目的に鑑み、その会員に対し奉仕の態度をもって誠実に職務を遂行し、勤務成績は良好であったから、原告らが解雇されるような理由は全くない。

(二)  右解雇の意思表示は被告の意思決定機関即ち定款及び運営委員会規程に基く理事会及び運営委員会の決議によらずに被告の専務理事柳沢太郎によってほしいままに発せられたのである。

(三)  右柳沢は原告らに対し右解雇の理由を当初は明らかにしなかったけれども、原告らの要求により同年一一月一三日に至りようやく、原告沢井、同徳田は従業中しばしば役員に反抗し会員を惑わす行為があったこと、同斎川、同野口は「被告の都合」によることが解雇理由であると通知してきた。

(四)  解雇理由及び解雇手続に関する被告の主張に対する反駁

A1 被告主張事実四(一)1は否認する。

(トランプ)原告徳田は、昭和三八年夏頃昼休み中トランプで一人占いをしたことがあるが、これにつき役員、会員等から注意、叱責を受けたことがない。

(応接室使用禁止)被告の評議員岸田三郎は、被告がその倶楽部の中に役員及び会員等のために設置した応接室二室中の一室(B室)をしばしば所定の料金(二時間一、〇〇〇円)を支払うことなく三、四時間にわたって無断使用していたのに対し、被告の一般会員から苦情が出ていたので、原告沢井が事務長海老沢丈次に「岸田さんがいつも長時間無料で使っているが、いいのですか。」と意見を述べたことがあるが、岸田の室使用を禁止したことはない。

(所持品保管の依頼拒絶)若干の会員は右応接室等を自己の事務所として使用し、現金、手形、小切手等を入れた鞄、書類、図面、衣類等を被告の事務室で保管するよう依頼するのであった。

被告の前事務長小暮健は昭和四〇年夏頃保管品の紛失事故が発生したことに鑑み、原告ら従業員に対し事務室では会員等から一切物を預らぬよう指示したので原告らは右指示に従い事務室(クロークではない。)での保管依頼を拒むことにしてきた。但し、強いて会員から求められた場合には、「紛失しても責任は負えない。」と念を押したうえ事務室に保管したことはある。

2 同四(一)2中、昭和四〇年九月中柳沢太郎がケース入り日本人形を購入し、帰国予定の駐日イタリア大使に贈呈し、同月二一日その代金として六、〇〇〇円を請求したこと、原告徳田が突然事務室から会員談話室に入って被告主張のような発言をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

右人形の贈呈は、被告の正規の機関が決定したことでなく、専務理事柳沢太郎が独断で決めたことである。原告らは日頃事務長から、被告の費用で品物を買った時は、必ず売主の署名押印のある領収書を貰ってくるよう厳命されており、そのとおり処理してきた。そこで原告沢井は、柳沢の前記支払請求に対しごく普通の調子で領収書の交付を求めたが、柳沢は被告の領収書用紙に柳沢の記名押印をしてこれに代えようとしたので、原告沢井、同徳田は、「人形を買ったお店の領収書でなければ。」と言ったところ、柳沢は、「問屋から直接安く買ったので領収書はない。」と答えた。その時、事務長海老沢は、「私が責任をもつ。」と言って会計担当の原告沢井が保管している現金中六、〇〇〇円を柳沢に手交したが、柳沢は、その際、「専務理事のおれがよいというのだから、いいだろう。」と怒鳴って自席へ戻った。

柳沢は、その二、三分後立ち上って原告徳田の席に来て、「徳田君、君はいつからそんな生意気なことを言うようになったんだ。」「生意気だ。生意気だ。」と言い、興奮して、同原告の事務服の襟を掴んで首を絞めた。それで原告沢井、同徳田は、柳沢がかつて事務員水野汀介に暴行を加えたことを思い出し危険を感じて事務室から隣の会員談話室に逃れたが、ここにおいて原告徳田は、常日頃柳沢が被告の業務を執行するに当り金銭面で不当不明朗な態度をとっている事実を見聞きしていたところから、思わず被告主張のような発言に及んだのである。その際同室にいた会員数名は、「君達(原告らを指す。)の言い分もあろうから、あとで聞こう。」との態度を執った者も少なくなかった。

その数刻後柳沢は被告倶楽部にたまたま来合わせた会員中約二〇名を呼び集め、前記の出来事について種々一方的な説明をしはじめたので、原告沢井、同徳田はこれに対し参集の会員らの求めるままに柳沢作成の領収書を示して事情を説明したところ、右会員らの殆ど全部は柳沢の経理のやり方に呆れていた次第である。続いて、原告徳田は柳沢の前記暴行の事実を話しはじめたところ、同人は大声で、「そんなことはない。」と言い張った。それから、右原告両名は、かねてからの要望である従業員の給与等労働条件を公正かつ明確に決定すること、就業規則を制定することをあらためて希望したところ、理事馬場重記は就業規則を二〇日以内に制定すると約したほか、「今日の問題について日を改めて検討しよら。」と述べて、会員らは退席した。右集会は運営委員会ではない。

柳沢は約二週間の後ようやく渡辺名義の領収書を提出した。

3 同四(一)3中、原告らが勤務に際し奉仕の態度を要求されることは認める。

したがって、原告らの言動は、従業員として相当な措置、態度というべきである。

B1 同四(二)1中、被告主張の規定が存することは認める。

2 同四(二)2及び3の事実は争う。

(五)  右事実によれば、被告の常勤専務理事であってその運営の実権を握る右柳沢が、原告らに対し、ことさら個人的悪意をもち、ついに何ら首肯すべき解雇理由が存在しないのに、被告意思決定機関の決議を経ないで解雇の挙に出たものというべきである。

四  原告らの賃金月額は主文第二項掲記のとおりであって、毎月一日から末日までの分を毎月末日に支払うとの約である。

五  しかるに、被告は右雇用関係の存在を争い、かつ原告らが労務を提供してもこれを受領せず、右賃金を支払わないので、原告らは右雇用関係存在の確認及び昭和四〇年一一月以降前記割合による賃金の支払を求めて本訴に及ぶ。

第三被告の主張

一  原告ら主張一、二の事実は認める。

二  同三(一)(二)(三)の事実のうち、柳沢が原告ら主張の日にその主張のような通知をしたことは認めるが、その余はすべて争う。

三  同四の事実は、認める。

四  解雇理由及び手続

(一)  解雇理由

1 原告徳田は、昭和三九年夏頃勤務時間中にしばしばトランプ遊びをしたため役員から叱責を受けて以来、役員及び会員に対しことごとに反抗的態度に及んだ。その余の原告三名も程なくこれに同調し、被告がその倶楽部の中に役員及び会員のために設置した応接室を役員が使用すること及び役員らの所持品を被告の事務室で預ることを正当な事由なく拒絶した。

2 被告は昭和四〇年九月中帰国予定の駐日イタリア大使に記念品を贈呈する旨決議し、専務理事柳沢太郎は右決議に基き、ケース入り日本人形を購入して同大使に贈呈した。柳沢は同月二一日被告事務室において会計事務担当の原告沢井に右代金六、〇〇〇円を請求したところ、同原告は理由なくその支払を拒み、さらに庶務担当の原告徳田は柳沢に経理上不正行為があると非難した。柳沢はその非礼をとがめたところ、原告徳田は突然事務室から隣の会員談話室に飛込み、折柄在室していた被告の役員及び会員らに向って大声で、「皆さん、助けて下さい。専務理事は横暴です。皆さんの会費が何に使われているか知っていますか。」などと叫んで、あたかも柳沢が経理上不正行為をしているかの如き言辞に及んだ。よって、右役員及び会員らはその非常識な行動に驚いて、原告徳田及びその同調者らの処分の可否を審議すべく即日、運営委員会を開催したところ、原告ら四名はその会場に乱入し役員の退場命令を無視して、「専務理事柳沢は不正にも前記六、〇〇〇円を請求した。われわれは事務長海老沢丈次を信任せず、従業員の待遇にも不満である。」等と大声で叫び、議長から制止された。原告沢井、同徳田はその後も連日のように柳沢が不正行為をした旨を会員らに言い触らした。

3 原告らは事務員として、被告の目的にかんがみ特に奉仕的態度をとることを要請される。しかるに原告沢井、同徳田の平素の反抗的態度及び右九月二一日の主導的言動、同斎川、同野口の平素の反抗的態度及び同日の同調的言動はかような要請に反するので、被告はもはや原告らとの雇用関係を継続できず、これらを解雇したのである。

(二)  解雇手続

1 被告の定款には、理事会は毎月第一火曜日に開催し出席理事の過半数をもって議事を決する旨(二七条本文)、被告の運営委員会規程には、被告の運営に関しては企画委員会、財務委員会を設けてこれに当らせる旨(一条)、企画委員会は従業員の雇傭解職等の件を掌る旨(一一条)、運営委員会は重要な事務を決議し会務を処理する旨(一〇条)、理事会及び運営委員会の決定事項に関し相互の意見相違を来した場合は両機関合同会議を開き協議決定する旨(一三条)等の定めが存する。そして慣行上、運営委員会は企画委員、財務委員をもって組織され随時会議を開いて一切の事項を決議してきた。なお、委員の出席については、「総会に出席せざる会員は委任により表決をなすことができる。但し、会員以外の者に委任することはできない。」との定款二三条の規定を準用して代理人によることが許されていた。

2 昭和四〇年一〇月五日理事長石井太吉ほか理事五名出席の上理事会が開催され、原告らの解雇につき審議の結果、これについては運営委員会の決議に従い処理する旨、出席理事全員一致をもって決議し、引続き企画委員、財務委員計一六名出席(代理人による出席三名を含む)の上運営委員会を開き右の件につき審議した結果全員一致をもって前記理由により原告らを解雇する旨決議した。

3 被告が解雇の意思表示をしたのは右決議に基くのである。

第四証拠≪省略≫

理由

一  原告主張一、二の事実は当事者間に争がない。

二  解雇の意思表示の効力

(一)1  原告徳田が勤務時間中にもかかわらず自席でトランプ遊びをしたとの事実につき、≪証拠省略≫に対比し採用できずその他右事実を認むべき証拠はない。

2  原告らが役員の前記応接室使用を拒絶したとの事実につき、≪証拠省略≫に徴し採用し難く、その他右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  ≪証拠省略≫によれば、原告らは被告の会員岸田三郎の依頼に従いその所持品を被告事務室にしばしば預ってきたところ、原告らのうち一人が同人から大型の重要書類なるものの保管を求められたが、たまたま事務室のロッカーに余裕がなかったので、その旨説明してこれを拒んだことが認められる。

4 被告は、原告らが昭和三九年夏頃以降被告の役員、会員に対し反抗的態度に及んだと主張し、≪証拠省略≫によれば、被告倶楽部に出入する役員及び会員らの中には、原告らが昭和三九年初頃からしばしば会員、来客等への挨拶をしない等礼儀に欠けているとして不快な感じを抱く者もあったこと、被告専務理事柳沢太郎はこれを心配して、事務長海老沢丈次にその是正措置を命じたことが認められるけれども、さらに進んで原告らの反抗的態度を窺わせる証拠は全く存しない。かえって≪証拠省略≫によれば、原告ら四名の勤務態度及び成績は概ね普通程度であったと認められる。

5  ≪証拠省略≫によれば、柳沢太郎はかねてから、専決又は事前もしくは事後に電話等により一部役員の了承を得て、被告の日常業務を執行してきたところ、昭和四〇年九月中旬頃駐日イタリア大使コッピーニの離日に際し理事長石井太吉、常務理事中山一衛、理事馬場重記、監事大月静夫等の役員の意見を徴したうえ、同大使に対し被告から記念品として柳沢の知人緋志幸こと渡辺しげ子の製作した日本人形を贈呈することに決し、まず右渡辺に対し右代金六、〇〇〇円を自ら立替えて支払ったこと、柳沢は同月二一日正午過頃被告の事務室において、事務長海老沢丈次に命じて原告沢井(会計担当)に右代金の出金を求め(人形の贈呈及び出金を求めたことは当事者間に争がない。)、同原告から領収書の提示を促されて柳沢名義の領収書を差出したこと、同原告はかねて海老沢から、被告が物品を買入れて代金を支出する際は必ず売主名義の領収書を徴すべき旨の職務上の指示を受けていた関係上、柳沢に対し、「人形を買ったお店の領収書でなければ。」と言い、かつ同室にいて時々会計事務を手伝う原告徳田も同様に述べたが、原告沢井は海老沢の指示により結局柳沢名義の領収書と引換に現金六、〇〇〇円を同人に交付したこと、柳沢は、従前から原告ら四名の礼儀作法に不満をもっていた折柄、右原告らの態度に憤激の極、「専務理事のおれがよいと言うのだからよいだろう。」と大声を挙げ、さらに立ち上って原告徳田の席に近付き、「いつから、そんな生意気なことを言うようになったんだ。」といいながら、同原告の事務服の襟首を掴み、なお、「生意気だ。生意気だ。」と叫んだので、原告沢井、同徳田は恐怖のあまり事務室から隣接の談話室へ逃れ、原告徳田は柳沢が被告の経理に関し従前とった若干の措置に釈然としていなかった関係もあり、同室にいた会員三〇名位に向って、「皆さん助けて下さい。専務理事は横暴です。皆さんの会費が何に使われているか知っていますか。」と叫び会員になだめられて別室に退いたこと(同原告が同室に入り会員らに右のような発言をしたことは当事者間に争がない。)、柳沢は、被告が当日被告の会員談話室で開催した講演会の終了後、午後二時一〇分頃から同所にたまたま来合わせた会員中約二〇名を応接室に呼び集め前記原告らの発言につき、弁明をはじめたので、その間原告ら四名は同室に立入り、原告野口がほどなく退去した後残余の原告ら三名はそこに居合せた被告の理事馬場重記の許可を得て、会員らの求めるままに前記領収書を示して事の経過を説明したほか、職場の空気と労働条件とに対するかねてからの不満が爆発し、海老沢事務長は信任できないと述べ、労働条件の向上と就業規則の制定とを求めたけれども、右会員らは、さして意見を述べることもなく、そのまま散会したことが認められる。≪証拠判断省略≫

原告徳田の前記発言後、被告の役員らが柳沢に経理上の不正行為があるか否かを問題として、これにつき特段の調査をしたとの事実は認められない。

(二)  右認定事実に基いて判断する。

1  前記(一)3の事実につき原告らに責めらるべき点はない。

2  同(一)4の事実は一応上司から注意されるに値するけれども、いまだ解雇の理由となる程度に達していないというべきである。

3  同(一)5の事実について

被告の会計事務上、物品買入代金の支出に当り売主名義の領収書の提出を求めるのは正当な措置であって、買入が専務理事のあっせんによるときでもこれと異なる取扱をすべき理はない。しかしその場合でも事宜により例外的に専務理事名義の領収書と引換に同人に対し代金を支出することは相互の信頼関係にかんがみ許容されるところであって、その後すみやかに売主名義の領収書を追完すべきは勿論である。柳沢がかような例外的取扱によることを求めたのに対し、原告沢井及び徳田が海老沢のかねてからの指示にもとずき売主名義の領収書を必要とする旨述べて柳沢の注意を喚起したこと自体は不当の措置ではない。しかしその言辞が柳沢にとってやや強きにすぎその感情を刺戟したことは否定できない。柳沢はこの場合かねがね原告らの礼儀作法を快く思っていなくても、はるか年下の同原告らに対してはその言辞を戒めれば足りるにもかかわらず、襟首をつかむ等の所為に及んだことはまことに分別ない行為というの外はない。

原告徳田の会員に対する前示発言内容は、恰も専務理事柳沢太郎が経理上不正を敢てしているとの印象を人に与えるものであって、抽象的にいえば柳沢の名誉ひいては被告の業務運営に影響なしとしないのである。しかし右発言によるも具体的不正事実は明らかでなく、被告の役員らがこの発言を問題視して柳沢の不正事実の有無を調査したりまた柳沢の地位に変動を来したと認められない以上、右発言により同人の名誉ひいては被告の業務運営に著しい悪影響を及ぼしたとはいえない。

同原告の右発言は、柳沢の暴行により恐怖の極前後をわきまえず日頃の疑念が思わず口をついて出たものであるから計画的所為とはいえない。

原告ら四名が講演会終了後応接室に立入り前示の言動に及んだことは理事の許可をえて職場における種々の不満を開陳したにすぎないからなんら不当ではない。

4  およそ、使用者側と労働者との間に感情的な行きちがいが存する場合においてその理由を問わないまま労働者の解雇をもって事態を解決することは許されるところでない。本件において隠れた感情的行きちがいが一挙に表面化し原告徳田の右発言に至った主因が柳沢即ち使用者側の暴行に存することは重視さるべく、同原告の右当日の行動の態様及び影響等が前示の如くである以上、同原告の従前の行為を考慮してもなお同原告に対する解雇の意思表示は恣意的であり権利の濫用として無効である。

原告沢井は原告徳田と異り会員に対し柳沢非難の発言をしていないからこれよりも責むべき点は少く、同斎川、野口も同様解雇に値するような所為に及んでいないから、これらの原告に対する解雇の意思表示もまた権利の濫用としてとうてい効力を生じない。

以上のとおりであるから、原告らと被告との間にはなお期間の定めのない雇用契約関係が存するといわなければならない。

三  原告主張四の事実はすべて被告の認めるところであり、弁論の全趣旨によれば被告は原告らの提供する労務を受領しないことが認められるから、被告は原告らに対し昭和四〇年一一月以降の賃金として主文第二項記載の金員を支払うべきである。

四  よって、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沖野威 裁判官 高山晨 田中康久)

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